新聞は「発達障害」をどう報じてきたか(朝日新聞編)

発達障害という概念が使われるようになったのは、そんなに昔のことではない。しかし、今では発達障害という言葉が、かなり世の中に出回っている(どこまで正確に認識されているどうかは別として)。そこで私が興味を持ったのは、発達障害という概念はいつ世の中に登場して、どのように普及していったのかということである。

それを調べるには、いろいろな方法があるだろう。だが、今回は新聞が発達障害についてどのように報じてきたかを調べることにした。新聞は、データベースやキーワード検索の機能が整備されており、手っ取り早く検証できるからである。もちろん、新聞は数多くあるメディアのうちの1つでしかないし、最近は発行部数も減少して影響力が下がっているとも言われている。

しかし、過去の新聞報道を検証することで、発達障害という概念がいつ頃から、どのようにして普及していったかを知るための、何らかのヒントは得られるであろう。今回は、その第一弾として、朝日新聞のこれまでの報道を検証する。私の印象では、朝日新聞は大手新聞の中でも、福祉に関する報道に力を入れている方である。

 

戦後、朝日新聞が初めて「発達障害」という用語を掲載したのは、1983年9月21日のこと。病院、福祉施設、行政が協力して子どもの発達を支援する北海道伊達市の取り組みを紹介した記事の中で使われている。こうした伊達市の支援が、「発達障害を早期に予防」するのだとして、好意的に報じている。ちなみに、ここでいう発達障害とは、具体的には言葉の発達が遅い、登校拒否、夜尿、拒食のことを指しているらしい。 

 

  • 発達障害」という用語が掲載された記事の数の推移

1983年に初めて報道されたものの、その当時発達障害に関する報道はほとんどなかった。「発達障害」という用語が掲載された記事件数を5年ごとに集計すると、次の通りになった。

 

1986~1990年 25件

1991~1995年 51件

1996~2000年 109件

2001~2005年 778件

2006~2010年 1658件

2011~2016年 1916件

 

特に、2000年以降に急増していることがわかる。この原因については詳しい分析が必要になるが、1つの仮説として、2004年に「発達障害者支援法」という法律が成立したことが影響しているということがいえる。

 

  • その他に注目すべき点

朝日新聞は、2001年という早い段階で、「こまった子じゃないよ:ADHDの現場から」というADHDをテーマにした特集を、3回にわたって連載している。この特集記事に対して、子育てに悩む母親など、読者から100通以上の反響が寄せられたということで、2002年にも再度、同じテーマで連載をしている。

特集の内容は、ADHDに対する世の中の理解が進んでおらず、家で暴れたり学校でいじめられたりしてしまうADHDの子どもや、その子育てに苦悩する母親、担当のクラスにADHDの子どもがいて、その対処に悪戦苦闘する教員や保育士の声を紹介している。そして、周囲の理解や適切な対応が必要であるという専門家の意見や、ADHDの子どもやその親を支援する支援団体の活動を紹介している。

 

最後に、私が個人的に興味があるのは、発達障害者の支援活動においては、NPO(非営利組織)の役割が大きいということである。そこで、「発達障害_NPO」で検索(期間は1986~2016年)すると844件ヒットした。この結果から、いかに発達障害NPOが強く関連しているかがわかる。

発達障害の定義と用語

本ブログを貫くテーマである「発達障害」。いまやちょっとした「ブーム」にもなっており、書籍やマスメディアでも頻繁に見聞きする言葉となっています(もっとも、単なるブーム、すなわち一時的な流行として、やがて世間の関心事でなくなるようではあってほしくないですが)。今後本ブログでも何度も言及するであろう言葉でありますので、まずはその定義について簡単に確認しておきましょう。

発達障害についての学術的で過不足のない整理というより、現状における筆者の理解のまとめという性格が強いです。

 

ただし、定義を確認するよりも前に確認しておきたいことがあります。それは、発達障害の研究は今まさに発展途上にあるため、定義についても年々更新される可能性が高いということです。そのことを考慮に入れたうえで、おそらくは日本の発達障害の定義に関する最も一般的に参照されると思われる、発達障害者支援法の第二条を以下に見てみましょう。

 

第二条   この法律において「発達障害」とは、自閉症アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害学習障害注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。

2   この法律において「発達障害者」とは、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいい、「発達障害児」とは、発達障害者のうち十八歳未満のものをいう。

3   この法律において「社会的障壁」とは、発達障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

4   この法律において「発達支援」とは、発達障害者に対し、その心理機能の適正な発達を支援し、及び円滑な社会生活を促進するため行う個々の発達障害者の特性に対応した医療的、福祉的及び教育的援助をいう。

 

これら障害の略称としては、AS(アスペルガー症候群)、ASD自閉症スペクトラム障害)、PDD(広汎性発達障害)、LD(学習障害)、ADHD注意欠陥多動性障害)などがよく用いられます。私はものぐさなので今後は略称を用いることが多いかと思います。

 

ASDは、いわゆる「こだわり」を強く持ち、他者との関わりやコミュニケーションに困難があるという特性があります。

LDは、文字の「読み」「書き」や「計算」など、特定の学習に関する困難があらわれることが特徴です。

ADHDは、注意欠陥(AD)や多動性・衝動性(HD)といった特徴を見ることができます。AHとHDは厳密には別個の障害ですが、両方を合わせ持つ場合も多く、その場合をADHDといいます。

 

ASD、LD、ADHDが最も代表的だと言えるでしょうが、それ以外にもたくさんの(筆者には把握しきれないくらいたくさんの)障害があります。これらを総称して「発達障害」といいます。発達障害は遺伝的な要因が大きい現象であると言われています。

 

上で、発達障害の定義は変更されうるということを書きましたが、まさにこの発達障害者支援法の文面にもそれが当てはまります。国際的な発達障害研究の基準として、米国精神医学学会の基準とWHOの基準があるそうです。前者、米国精神医学学会の基準改正で、2013年からASやPDDというカテゴリーが使われなくなり、代わりにASDといわれるようになったという経緯があるからです。

 

ゆえに発達障害発達障害者支援法の文言をベースにしてより今風に書き直すと、発達障害とは自閉症スペクトラム障害ASD)、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害ADHD)、その他これに類する脳機能の障害であって、その脳機能の障害によって引き起こされる症状とでも言えるかと思います。

また、発達障害者支援法第二項の「『発達障害者』とは、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるもの」という一文は、発達障害の先天的な特性と、その特性が社会生活を営む上で「障害」となっている状態を峻別しており、これは重要な着眼点であると考えます。「発達障害」といいますが、発達過程で障害が後天的に加えられるという意味ではなく、先天的に持つ特性が社会のなかの一人の人間として育っていく発達過程で障害として感じられるようになるという意味です(分かりにくいですよね。別記事で改めて検討します)

 

また、これは完全に私見ですが、個人的には、発達障害は、①ASD、②ADHD、③LD、④その他というようなジャンル分けをして、場合によってはそれらの組み合わせであるというように理解しています。

 

さて最後に、既に少し先に書きましたが、「発達障害」という言葉の定義にはいくつかの語弊を与えてしまう可能性が残されていると思っています。このことのように、書きたいテーマがいくつかあるので、とりあえず思いつくことを下に書き出します。これらの項目についてはそのうち順不同ながら個々に検討しようかと思います。

 

①そもそも「発達障害」という日本語は誤解や偏見を生んでいるのではないか?

発達障害は「低年齢において発現する」もの?「大人の発達障害」とは?

発達障害は先天的な「病気」なのか?「治る」のか?

発達障害は「最近増えている」?「40人学級に2,3人程度いる」って本当なのか?

発達障害で何が「問題」なのか?――「個性」と「社会」の狭間で

発達障害と学力 

発達障害と職業

 

<参考文献>

千住淳『自閉症スペクトラムとは何か』ちくま新書、2014年

 

(ピエールかわ)

はじめに:筆者と本ブログについての紹介

はじめまして!

 

このウェブページは、「別所カラ」と「ピエールかわ」の二人の人間が(※漫才コンビではありません)、発達障害を話題の中心として日々の所見を徒然なるままに書き連ねていくブログです。

(ちなみに本記事を書いているのはピエールです)

 

さて、冒頭にもあるように、本ブログは「発達障害」をメインのテーマとして記事を書いていきます。

筆者二人は発達障害(とその教育政策)に関心があり、いろいろと情報や主張を発信していくことがこのブログの主たる目的です。ですが、いかんせんまだまだ勉強の途上でして、このブログも、自身の勉強として知ったことのまとめ、まとまりのない感想、日々の息抜きという性格が強くなるかもしれません。また、筆者が複数人ですので関心のあるテーマ、見解、書式、口調など、統一されていないことがあるかもしれませんが、こういう事情ですのでご容赦お願いします。

 

発達障害とは何か、ということは次の記事で書こうかと考えています。

 

筆者二人の余暇活動的な要素が強いブログですが、どうか肩の力を抜いて、ご笑覧いただけたらと思います。筆者も肩の力を抜いてやっていきたいと思ていますので(笑)

 

(ピエールかわ)