発達障害の定義と用語

本ブログを貫くテーマである「発達障害」。いまやちょっとした「ブーム」にもなっており、書籍やマスメディアでも頻繁に見聞きする言葉となっています(もっとも、単なるブーム、すなわち一時的な流行として、やがて世間の関心事でなくなるようではあってほしくないですが)。今後本ブログでも何度も言及するであろう言葉でありますので、まずはその定義について簡単に確認しておきましょう。

発達障害についての学術的で過不足のない整理というより、現状における筆者の理解のまとめという性格が強いです。

 

ただし、定義を確認するよりも前に確認しておきたいことがあります。それは、発達障害の研究は今まさに発展途上にあるため、定義についても年々更新される可能性が高いということです。そのことを考慮に入れたうえで、おそらくは日本の発達障害の定義に関する最も一般的に参照されると思われる、発達障害者支援法の第二条を以下に見てみましょう。

 

第二条   この法律において「発達障害」とは、自閉症アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害学習障害注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。

2   この法律において「発達障害者」とは、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいい、「発達障害児」とは、発達障害者のうち十八歳未満のものをいう。

3   この法律において「社会的障壁」とは、発達障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

4   この法律において「発達支援」とは、発達障害者に対し、その心理機能の適正な発達を支援し、及び円滑な社会生活を促進するため行う個々の発達障害者の特性に対応した医療的、福祉的及び教育的援助をいう。

 

これら障害の略称としては、AS(アスペルガー症候群)、ASD自閉症スペクトラム障害)、PDD(広汎性発達障害)、LD(学習障害)、ADHD注意欠陥多動性障害)などがよく用いられます。私はものぐさなので今後は略称を用いることが多いかと思います。

 

ASDは、いわゆる「こだわり」を強く持ち、他者との関わりやコミュニケーションに困難があるという特性があります。

LDは、文字の「読み」「書き」や「計算」など、特定の学習に関する困難があらわれることが特徴です。

ADHDは、注意欠陥(AD)や多動性・衝動性(HD)といった特徴を見ることができます。AHとHDは厳密には別個の障害ですが、両方を合わせ持つ場合も多く、その場合をADHDといいます。

 

ASD、LD、ADHDが最も代表的だと言えるでしょうが、それ以外にもたくさんの(筆者には把握しきれないくらいたくさんの)障害があります。これらを総称して「発達障害」といいます。発達障害は遺伝的な要因が大きい現象であると言われています。

 

上で、発達障害の定義は変更されうるということを書きましたが、まさにこの発達障害者支援法の文面にもそれが当てはまります。国際的な発達障害研究の基準として、米国精神医学学会の基準とWHOの基準があるそうです。前者、米国精神医学学会の基準改正で、2013年からASやPDDというカテゴリーが使われなくなり、代わりにASDといわれるようになったという経緯があるからです。

 

ゆえに発達障害発達障害者支援法の文言をベースにしてより今風に書き直すと、発達障害とは自閉症スペクトラム障害ASD)、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害ADHD)、その他これに類する脳機能の障害であって、その脳機能の障害によって引き起こされる症状とでも言えるかと思います。

また、発達障害者支援法第二項の「『発達障害者』とは、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるもの」という一文は、発達障害の先天的な特性と、その特性が社会生活を営む上で「障害」となっている状態を峻別しており、これは重要な着眼点であると考えます。「発達障害」といいますが、発達過程で障害が後天的に加えられるという意味ではなく、先天的に持つ特性が社会のなかの一人の人間として育っていく発達過程で障害として感じられるようになるという意味です(分かりにくいですよね。別記事で改めて検討します)

 

また、これは完全に私見ですが、個人的には、発達障害は、①ASD、②ADHD、③LD、④その他というようなジャンル分けをして、場合によってはそれらの組み合わせであるというように理解しています。

 

さて最後に、既に少し先に書きましたが、「発達障害」という言葉の定義にはいくつかの語弊を与えてしまう可能性が残されていると思っています。このことのように、書きたいテーマがいくつかあるので、とりあえず思いつくことを下に書き出します。これらの項目についてはそのうち順不同ながら個々に検討しようかと思います。

 

①そもそも「発達障害」という日本語は誤解や偏見を生んでいるのではないか?

発達障害は「低年齢において発現する」もの?「大人の発達障害」とは?

発達障害は先天的な「病気」なのか?「治る」のか?

発達障害は「最近増えている」?「40人学級に2,3人程度いる」って本当なのか?

発達障害で何が「問題」なのか?――「個性」と「社会」の狭間で

発達障害と学力 

発達障害と職業

 

<参考文献>

千住淳『自閉症スペクトラムとは何か』ちくま新書、2014年

 

(ピエールかわ)